AIを使ったことを取引先に伝えるかどうかに、全国一律の決まりはありません。契約書の条項、取引先のルール、会社の方針、成果物の性質を確認し、迷うときは伝える方向で考えるのが、信頼を保つうえで無難です。
AIを使うこと自体は、多くの場面で問題になりません。問題になるのは、約束と違う使い方をしたり、確認を怠ったりして、結果に責任を持てなくなる場合です。
確認すべきこと
伝えるかどうかを考える前に、次を確認します。
- 取引先との契約書に、AIの利用やデータの取り扱いに関する条項があるか
- 取引先が、発注の条件としてAIの利用について定めているか
- 自社に、AI利用の開示に関する方針があるか
- 成果物の著作権や、オリジナル性が求められる契約か
契約に、第三者への情報提供の禁止や、秘密保持が定められている場合は、AIサービスへの入力が、その条項に触れる可能性があります。この点は、AIを使ったことを伝えるかどうか以前の、使ってよいかの問題です。
契約の解釈に迷うときは、法務の担当者や専門家に確認します。
伝えたほうがよい場面
次のような場面では、AIの利用を伝えることを検討します。
- 取引先が、AIの利用について事前に確認を求めている
- 成果物が、専門性や創作性そのものを対価としている(デザイン、執筆、翻訳など)
- 取引先の情報を、AIサービスに入力する可能性がある
- 成果物の一部または大部分が、AIの出力に基づいている
- 取引先の業界やルールで、AIの利用が規制または管理されている
反対に、メールの文面を整えた、誤字を直した、といった補助的な使い方は、一般的には個別に伝えなくても問題にならないことが多いです。ただし、取引先の考え方によって、感じ方は異なります。
伝えないことのリスク
AIを使っていることを隠していて、後から分かると、信頼を損なうことがあります。特に、取引先が「人が書いたもの」と期待していた場合に、問題になりやすくなります。
また、AIの出力に誤りがあって問題になったとき、AIの利用を伝えていなかったことが、不信感を強める原因になります。事前に、どの範囲でAIを使い、人がどう確認したかを説明できれば、信頼につながります。
意図的に隠すつもりがなくても、聞かれたときに正直に答えられる状態にしておきます。
伝え方の例
伝える場合は、簡潔に、事実と、確認の体制を示します。たとえば、次のような形です。
「本資料の作成にあたり、文章の整理と校正の一部に、生成AIを利用しています。内容の事実確認と最終的な責任は、弊社の担当者が負っています。入力にあたっては、貴社の情報が外部に出ないよう配慮しています。」
この例のように、(1)どの工程で使ったか、(2)人が確認していること、(3)情報の扱いへの配慮、の三点を書くと、相手が安心しやすくなります。
見積書や契約書に、AIの利用方針を記載しておく方法もあります。個別の連絡より、事前の取り決めのほうが、お互いに誤解がありません。
取引先から聞かれたとき
取引先から「AIを使いましたか」と聞かれたら、事実を正直に答えます。曖昧にごまかすと、信頼を失います。
答え方は、次の順に整理します。
- 使ったか、使っていないか
- 使った場合、どの工程で、どんなサービスか
- 人がどう確認したか
- 相手の情報の扱い
答えにくい質問、たとえば「どのサービスを使ったか」「入力した情報は何か」などは、会社の方針に従って回答します。社内で答え方を決めておくと、担当者が迷いません。
社内で方針を決める
個人の判断に任せると、担当者によって対応がばらつきます。社内で、次の方針を決めておきます。
- AIの利用を開示する基準(どんな場合に伝えるか)
- 開示の文面のひな型
- 取引先から質問されたときの回答の担当者
- 取引先の契約条項の確認の手順
方針は、取引先との関係や、業界の動きによって見直します。最近は、AIの利用に関する指針を公表する会社や業界団体も増えています。公的機関や業界団体の資料も参考にしてください。
業界や分野による違い
AIの利用の開示に関する考え方は、業界や分野によって異なります。報道、出版、教育、医療、金融、法律などの分野では、独自の指針や規制が議論されています。自分の業界で、業界団体や監督官庁が公表している指針がないかを調べます。
分野によっては、AIの利用の表示が求められたり、特定の用途への利用が制限されたりしています。最新の情報は、団体や官庁の公式の資料で確認してください。
伝えることの利点
AIの利用を前向きに伝えることには、利点もあります。AIを活用して、作業時間を短縮し、その分を確認や相談に使っていると説明できれば、取引先にとっても、品質やスピードの面で利点になります。
隠すより、使い方と確認の体制を説明するほうが、現代的な仕事の進め方として理解されやすくなってきています。ただし、取引先の考えにも配慮し、押しつけにならない伝え方を選びます。
説明できる状態にしておく
伝えるか伝えないかに関わらず、聞かれたら説明できる状態にしておきます。いつ、どの業務で、どのサービスを使い、どう確認したかを、簡単なメモに残しておきます。このメモがあれば、取引先からの問い合わせや、社内の監査があっても、慌てずに答えられます。
開示の文面を用意する
開示する場合に備えて、いくつかの文面を準備しておくと便利です。契約書に入れる一文、見積書に添える注記、成果物の末尾につける説明、メールで尋ねられたときの返信の四種類程度です。
文面は、短く、事実だけを書きます。「生成AIを利用しました」だけでは足りず、どの工程で、人がどのように確認したかを添えると、相手が安心します。法的な意味を持つ文面は、法務担当者に確認してもらいます。
小さな会社やフリーランスの場合
担当者が一人の場合は、取引先ごとに判断する必要があります。契約書や発注書にAIの条項があれば従い、なければ、新しい仕事を受けるときに、AIの利用方針を伝えておくと誤解が減ります。自分の方針を、ホームページや提案書に書いておく方法もあります。
次にやること
自分の仕事について、次の整理をしてみてください。
- AIを使っている業務を、一覧にする
- 各業務の取引先との契約に、AIや情報の取り扱いの条項があるか確認する
- 伝えるべき業務と、伝えなくてもよい業務に分ける
- 上司に相談して、会社としての方針を決める
方針が決まれば、取引先から聞かれたときも、落ち着いて答えられます。AIを使うことが、誠実さや品質を損なうものではないと示せるよう、確認と責任の体制を整えておいてください。




